デスマッチはAIにはできない

フリーダムズを観に行くようになったのは、仲良くしてもらっているTBSの宇賀神メグアナウンサーが、デスマッチにハマったからでもある。先日もふたりで観戦に行き、帰りにご飯を食べながら語り合った。

宇賀神さんは言った。「デスマッチはAIにはできませんから」。AIに仕事を奪われると脅かされ始めて数年。大量解雇が発生している業界もある。モヤモヤしていたところに、彼女が正鵠(せいこく)を射た。デスマッチはAIにはできない。その通り。AIには血が流せないから? いや、もっと深いところに答えがあるはずだ。

しばらく考えを巡らせ、ある答えにたどり着いた。AIには賭(と)するものがないから、デスマッチができないのだ。

AIにだって、残酷なことはいくらでもできる。現実世界では、AIにコントロールされた無人ドローンが自律型兵器として人を殺している。最悪だ。

AIは人に比べて無敵だ。命、気力、体力、家族、思考力などを失う心配がないから。つまり、AIには恐怖がない。膨大なプログラミングを行うサーバーコンピューターの熱を冷ますために大量の水が必要だと言われているが、AIにその自覚はないだろう。

宇賀神さんの慧眼のおかげで、デスマッチに魅了される理由がわかった。失う恐怖に揺れながらも克服し、命を賭して戦う姿に私は感銘を受けているのだ。

我々には命がある。それは究極の弱さであり、強さでもある。それを賭するのは、リングのなかの非日常だけであってほしい。

【関連記事】
ジェーン・スー 半世紀以上を生き、たいていのことには対応できると思っていた。まさか、昼食に入った蕎麦屋で狼狽えることになるとは…
ジェーン・スー 衣替えで判明した「あまりの服の多さと足りなさ」。喜んで着たい服がそれほどないという事実に、腹を決め始めたことは
ジェーン・スー 能動的に楽しみを発見しに行くはずの観光が、受動的なエンタメに。極端に商業化されたツーリズムは、観光客から固有の視点を奪う?

本連載+αをまとめた書籍が販売中!

きのうまでの「普通」を急にアップデートするのは難しいし、ポンコツなわれわれはどうしたって失敗もする。変わらぬ偏見にゲンナリすることも、無力感にさいなまれる夜もあるけれど、「まあ、いいか」と思える強さも身についた。明日の私に勇気をくれる、ごほうびエッセイ。