これは麻子にとってのリハビリなのだ、と私は何度も父に説明した。だが、やはりわかってはもらえなかった。父はしばらく怒鳴り続けたが、やがて疲れたのか静かになった。私は味噌汁でびしょびしょになった父を着替えさせ、ベッドに連れて行った。するとすぐに眠ってしまったので、食堂の床を拭いて飛び散ったおかずを片付けた。
 麻子の耳には入れたくない。今は大事なときだ。こんな暴言で麻子の心が折れたら大変だ。今はとにかく麻子を守ろう。私はため息をついた。父が理解してくれることは決してない。だから、麻子に伝えなければ。しばらくの間は父と顔を合わさないほうがいい、と。
 父が検査入院をする日が来た。
「お母さん、今夜は霧さんと食事をしてくるから」
 すると、麻子が驚いた顔をした。
「二人で?」
「ええ。お祖父ちゃんは午後から検査入院をするし、麻子は一人でゆっくりして」
「わかった」
 麻子は昼には出かけてしまったので、父の世話をしながら入院の用意をした。ショートステイ用のバッグに着替えやオムツなどを詰めていると霧から連絡があった。
「今、こっちに麻子ちゃんが来てたんだが……ちょっと具合が悪くなったので送って行くよ」
「麻子が? なにかあったんですか」
「いや、取材の終わりに駅まで送って行ったんだが、高校生の自転車が飛ばしてきて危うくぶつかりかけたんだ。それで、麻子ちゃんが驚いてちょっと過呼吸みたいな感じになって。もう落ち着いてるから大丈夫だよ。今からそっちへ向かうから」
「そうですか。すみません」
 取材に行くとは聞いていない。急に思い立ったのだろうか。行き先くらい言ってくれたらいいのに。いや、それは過干渉だろうか。だが、どちらにせよ今日のデートは中止だ。麻子が落ち着くまでそばにいなければならない。