「お父さん、いい加減にして。白鳥さんに失礼でしょう」
 もう我慢ができなかった。父に食って掛かると、霧が静かに言った。
「山際さん。今、あなたがおっしゃったことはすべて間違っている。一つだって正しいところがない」
「なんだと?」
 父が口から泡を飛ばして怒鳴った。ストッパーを掛けた車椅子がぎしぎし揺れた。
「お辛い状況はわかります。だが、木綿子さんも麻子さんも人格を持った一人の人間で、自分の頭で考えることのできる大人だ。頭ごなしに言うのは間違っています」
「大人? まともに金も稼がん女子供のどこが大人だ。ここは私の家だ。私が住まわせてやっているんだ」
 父は膝に掛けてあった毛布を剥ぎ取って地面に投げ捨てた。
「早く連れて行ってください」
 私に言えるのはそれだけだった。病院の介護士たちは事務的に挨拶をすると、父を車に乗せて連れて行った。
 私は家の前に立ち尽くしていた。きっと凄まじい顔をしていただろう。本当は父を黙らせたかった。二度と暴言を吐けないよう、人を傷つけないように……殺してやりたかったのだ。
 

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