急に身体の力が抜けた。どれだけ今日の食事を楽しみにしていただろう。服も選んであるし、アクセサリーも用意して、靴も磨いたのだ。それがすべて無駄になった。
 仕方がない、と自分に言い聞かせるが諦めがつかない。つい、未練がましく今夜のことを考えてしまう。霧と向かい合い、落ち着いて話をしながら美味しい物を食べる。それはきっとどんなに幸せな時間だっただろう。
 惨めでたまらない。父の叱責が耳について頭がおかしくなりそうだ。私はなかば死人のようにのろのろと車椅子を押した。
 病院からの送迎車が着いた。車椅子の父は仏頂面だ。私が荷物の入ったバッグを運んでいると怒鳴った。
「もたもたするな。やっぱり、おまえはなにをやらせても駄目だな」
 そのとき、家の前に霧の車が止まった。サイドに白鳥酒造とある古い商用バンだ。父はそこから霧と一緒に麻子が降りてきたのをみて、激怒した。
「就職もせずに男遊びか。いい気なものだな」
 霧は一瞬驚いたようだったが、すぐに礼儀正しく頭を下げた。