「気持ちで演じる」とは

お正月に年賀状を監督に送ると、返事のはがきには、

「週刊誌やテレビなどは見ないこと」

『今日も、自分を生きる練習』(著:佐津川愛美/幻冬舎)

と書かれていた。新年の挨拶もなく、厳しいことが書いてあって震え上がった。

私が演じた「ふく」という女の子は貧しい武家に生まれた子。江戸時代の人間を演じるのだから、現代の生活からはなるべく離れなさいと。それがいわゆる「役作り」と呼ばれるものだったのだろう。

「小手先でやるな! 気持ちでやれ!」

とにかく何度も言われた。

現代的な言い方をすれば、黒土監督は「こわい監督」だったかもしれない。

俳優は下の下だ! えらくなんかないぞ! 生意気にならないように、勘違いしないように、そう言ってくれていたのだろう。

「女優はビールを注ぐな!」

お酌して媚を売る必要はない。プライドを持て。きっとそういうこと。

14、15歳の私には、すぐに理解出来ないことも多かった。でも、監督から教えてもらったことは、今の私の、20年この仕事をやってきた中での、心の真ん中に常にある。俳優としての在り方だけではなく、演じる上での心得も監督から学んだと思う。

ふくはあまり台詞のない役だった。時代的にも立場的にも、秘めた思いが多い役。芝居経験がないながらに、監督に言われたことを一生懸命考えた。

とあるシーンのカットがかかった瞬間。

「OK! 佐津川くんは今、背中で芝居をしていた。それだ! いいぞ!」と言ってもらった。なんだか嬉しかった。

気持ちで演じるとは、どういうことなのか、言語化するのはいまだに難しいけれど、技術よりも気持ちという監督のスタンスがスタートだったから、私は演じることに魅力を感じたのかもしれない。