最後まで撮影をしていたんだなぁ

「蝉しぐれ」ぶりに監督が映画を撮るとなったとき、13年ぶりに黒土組スタッフは当たり前に集結した。私も呼んでもらえたので、緊張しながら現場に行った。ほんの少しの撮影でも、これまでにないぐらいの緊張感だった。ただ、監督はこわくなかった。私は一度も怒られなかった。自分が大人になったのか、監督が歳を取ったのか。

「『星めぐりの町』の撮影のときは、みんなから優しくなったと言われたと何度も何度も言ってたんですよ」と奥様。みんなで笑った。

(写真提供:Photo AC)

会話が出来なくなってからも、ベッドの上で、「カメラをひくぞ!」と監督は言っていたとのこと。業界に詳しくない奥様はわからなかったけれど、黒土組の撮影カメラマンが来てくれたときにその話をすると、現場で使う言葉ですよ。と教えてもらったそう。

監督は最後まで撮影をしていたんだなぁと胸が熱くなった。

素敵なお名前を頂けたんです、と戒名が詳しく書いてある紙を見せてくれた。映画の「映」という字が入っていた。

本当に映画を愛した人だった。

何度もその話をしてくれた奥様。

みんなで監督のことを話せて、とても嬉しかった。

「監督が最後までずっと持っていたものだから。持って帰ってくださいね」

机の上に置かれた14歳の私の写真をお兄さんが渡してくれた。

20年前、監督はこの写真を見て、私に会ってみたいと思ってくれたそうだ。

最後に、

「これ、愛美さんに食べて頂きたいんだけど、なんてことないただのクッキーなんだけど。こちらの地元の方の。でも監督が最後まで食べられたものだから」

そう言って手渡してくれた紙袋には、黄色い缶が入っていた。

私は頂いた紙袋に、14歳の自分が写った写真を入れて持ち帰った。

クッキーが入った黄色い缶には、可愛いクマがデザインされていた。こんな可愛いものを監督は好んでいたんだなぁとほっこりした。