映画『蝉しぐれ』(「蝉」は正しくは旧字)でスクリーンデビュー以来、20年にわたり数々の作品で印象的な役を演じてきた俳優・佐津川愛美さん。2025年には『映画と仲間filty』を設立し、映画の現場の魅力をより多くの人に届ける活動にも取り組んでいます。そこで今回は佐津川さんの初エッセイ『今日も、自分を生きる練習』より一部を抜粋し、佐津川さんが「自分自身の輪郭を見つめ直した軌跡」をお届けします。
渋谷でもらった「一生忘れない」
楽屋のオープン時間を早めてくださったので、いつもより余裕を持って劇場のある渋谷に着いた。井の頭線側の八百屋さんで11時までサラダとスムージーのセットが400円で売っている。最近よく選ぶそのセットを買うつもりだったけれど、今日は時間もあるし、フルーツを覗いていこうと店内入口に向かったときだった。
「ちょっとお聞きしてもいいですか?」
杖をついたご老人に声をかけられた。
「くるくるまわるバスはご存知?」
ガラケーを握りしめ、不安げに立っていた。
巡回バスのことかなと思い、
「渋谷区のハチ公バスですか?」
「そうじゃなくて、あの、海外の洋服屋さんがあったでしょ?」
これはなかなか難しいクイズかもしれない。
「どちらに行かれますか?」
「お寺さんに行くんだけどね……バス停がいつも降りたらすぐあるんだけど。家族に電話したけどみんな仕事で出払ってるみたいで出ないのよ」
バス停かぁ。
「どちらのお寺に行かれるかわかりますか?」
「**寺」
よかった、名前がわかればお調べ出来ます! Google 先生に尋ねると車2分、バス10分、徒歩10分と表示された。