取り繕ったことは言えなかった
「うちは日暮里の方だから、渋谷はお寺さんのときだけなのよ。おかしいわねぇ。いつもはバス停がすぐあるんだけど」
話しながらゆっくりゆっくり歩いた。ゆっくり歩いていると、やはり青信号で渡り切れない。いつもならせかせか歩いている渋谷の高架下にある横断歩道。半分渡ったところに一度止まれるスペースがあることも知らなかった。
「信号が変わりそうなので、1回待ちましょう」
信号を待つ間も話は続いた。
「……息子がね、亡くなったのよ。病院に入ってあっという間。コロナで面会出来なくて。全然会えなくて。会えないまま。私より先にいっちゃうなんてね。家族に、お母さん家にばっかりいちゃダメだって、少しは外を歩いてきなさいって言われて、久々に出てきたけど。お友達どこいっちゃったのかしら」
胸がズキンとしたのは、祖母の姿と重なったからだった。
「うちも同じです。お孫さんはいらっしゃいますか?」
「孫は居るけど。息子が亡くなってもなんだか気丈なのよ」
「しっかりしなくちゃって思ってるんですよ。きっと。家族を守らなくちゃって。私はそう思いました。祖母も自分より先にいっちゃうなんてっていまだに言ってますけど、なるべく楽しく過ごしてほしいっていつも伝えてます」
変に取り繕ったことは言えなかった。
自分が普段思っていることを、孫目線の気持ちを、正解かはわからないけど話していた。
「そうね」
ご老人は小さく呟いた。
「お寺さんにお参りに行くから、きっといい人に助けてもらえたのね」
「そんな風に言ってもらえて光栄です」