「一字一句、違えずにお願いします」
08年、『人間合格』で初めて井上ひさし作品に登場する。この時、太宰治役だった岡本健一さんによると、「やまにいは名優ですね、頭も良いし、芸達者だし、優しいし。僕は十代の頃太宰にハマっていたので最高でした」とのこと。
――そうですか、岡本くんがね。僕と甲本雅裕さんが太宰の友達役で、井上さんが「今回はとても3人の友情が見えてよかったね」って言ってくださって、何回も一緒にご飯に誘ってくださいました。新宿の紀伊國屋サザンシアターだったので、中村屋のカレーとか、時にはふぐとかも。
それからしばらくこまつ座さんとはご縁がなくて。11年に新国立劇場で井上さんの『雨』が上演され、当時の(市川)亀治郎さんと永作(博美)さんが出られた芝居に僕、呼んでいただいて、その時初めて演出家の栗山民也さんとご一緒しました。
栗山さんから教わったことが非常に多くて、この出会いが第3の転機だと思いますね。
この時の『雨』では、江戸から主人公の拾い屋の徳を追いかけてくる釜六っていう〈おかま〉の役でしたけど、井上さんの台詞ってすごい論理的で筋が通ってるんですね。言葉の種類が豊富で、その順番にもこだわりがある。
さっきは「でも」って言ったのに、こっちは「しかし」になって、ここは「だが」になって、次は「でもしかし」とか。それで栗山さんがおっしゃるには、「ここでこの言葉を出して来るのに井上先生がどれだけ時間をかけると思う?」と。
「命削ってこの言葉一つを考えてんだよ」。すぐに、『人間合格』で井上さんとの顔合わせの時のご挨拶、「私の言いたいことはただ一つ、一字一句、違えずにお願いします」を思い出しました。