「エンゾの見ている世界をなぞる」ような没入体験

エンゾはちょっと見たら「豊かな環境で甘ったれたピーターパン」だ。典型的な発達障害の特性も抱えているように見える。しかし、彼はただ甘えているのではない。両親や兄姉が乗っているような「エリートとして人生を盤石にしていく」ことに疑問を感じ、人生で「何が真実なのか。自分の人生をかけるに値する、目に見えない確かなものは何なのか」を真剣に悩んでいるのだ。

イラスト提供:さかもと未明さん

「まるで自分の青春時代のようだ」と感じる人は多いのではないか。私などすっかり共感してしまい、気が付くと夢中で見ていた。

「君の見る世界をなぞる」というタイトルは、最初とっつきにくいが秀逸だ。この映画は特別な説明など一切しないで、エンゾの見る世界をなぞるようなカメラワークで進んでいく。彼のアップや客観的なカットも勿論あるが、それはエンゾ自身の視線と交差し、やがて私たちは「エンゾの見ている世界をなぞる」ような没入体験をしていくのだ。

家にプールがある設定は、主人公のエンゾを演じるエロワ・ポユが、競泳選手だったことを活かすためかもしれない。彼は肩を壊し、リハビリのため選手生活の中断を余儀なくされた時期に、オーディションを受けてこの映画で俳優デビューした。そんな彼は、世界に違和感を抱きさまようエンゾを理解したのだろう。

初めての演技とは思えないリアルさで、見事にエンゾを演じている。新人ゆえのフレッシュなインパクトもいい。勿論その力をカンヌで何度も認められてきたロバン・カンピヨ監督や、そのスタッフの力に支えられてこそだろう。カンピヨ監督は、長年の盟友であるローラン・カンテが長年温めてきたこの作品の企画を、彼の逝去後に引き継ぐ形で完成させた。そんな思い入れも、この映画を特別なものにしたのだろう。