1989年に漫画家デビュー、その後、膠原病と闘いながら、作家・歌手・画家としても活動しているさかもと未明さんは、子どもの頃から大の映画好き。古今東西のさまざまな作品について、愛をこめて語りつくします!今回は8月21日から公開の『君の見る世界をなぞる』です。南仏を舞台に16歳の少年の心の機微を描いた作品です。(イラスト:筆者)
「ヨーロッパ映画の粋」が結晶
久しぶりに見る、文芸作品の珠玉の名作。フランス・ベルギー・イタリアの合作で、見事に「ヨーロッパ映画の粋」が結晶したような作品だ。
最初、タイトルを見た時は「これは、最初から映画好きの一部の人しかターゲットにしないのかな」とさえ思った。事実、公開するのはいわゆる「ミニシアター」。良質な映画を少ない観客に向けて発信する映画館がほとんどだ。
しかしである! 日本全国のミニシアター的な映画館が一斉上映。公式ホームページもひときわ美しく、宣伝会社の力の入れ方は半端ない。私もそうだがこの作品は見た人は、感動のあまり「もっともっとたくさんの人に見てほしい!!この作品には、マニアだけの世界に収まらない力がある!!」と確信してしまうのだろう。この作品には、ミニシアターに収まらない普遍的な感動と美しさがある。
作品の原題は「ENZO」。主人公の名前だ。16歳のエンゾは学校になじめず、「建築は長いこと残るから」と、何か確かなものを求めて、建築現場でレンガを積むアルバイトをしている。しかし不器用この上なく、「お前はこの仕事に向かない」と退職を促すつもりの親方の車に乗せられ、自分の家へと向かう。
エンゾの家を訪ねた親方は驚く。高台の広大な海を臨む豪邸。プール付きの家には美しい母親と自信に満ち溢れた力強い父親、そしてエリートとしての道を歩むエンゾの兄が住んでいた。
