私たち自身の物語
ヴラドはやがて戦地に行く。その悲劇性が、なんと深くリアルに浸み込んでくることか。戦場の悲惨さは、この映画で描かれることはない。しかし戦地で爆撃に遭い、砲弾に倒れる戦士たちは、皆こんな当たり前の人生を生きる青年たちなのだ。無名の彼らにも愛する家族や恋人がいて。けれどそれを残して戦地に赴く。帰還する者もいるだろうが、多くは無名の戦士として死ぬ。その痛みが、見ているだけでひしひしと伝わってくるのだ。
こんな切なさは、そうだ『スタンド・バイ・ミー』を見たときに感じた(これはアメリカ映画だが)。戦地を描かないことがむしろ、その残酷さを浮き彫りにする。それは「ニュースの向こうの他人事」ではなく、私たち自身の物語なのだ。私たちの愛する人が、戦地に赴くということなのだ。
この作品は『おもいでの夏(SUMMER OF '42)』(これもアメリカ映画・音楽はミシェル・ルグラン)や、『大人は判ってくれない』で感じたような切なさで、私の心を揺さぶった。そうだ、本作はトリュフォーの作品のように繊細に、私たちの心をえぐる。優れた映画はナイフのような鋭利さで、過去の記憶を掘り起こす。
本作にはぜひロングランし、多くの映画館で沢山上映されてほしい。文学的だが、映像の美しさ、自分の人生をたどるような懐かしさで、何度も見たくなるような映画だ。正直に言うが私は、自分の16歳の頃に連れ戻され、エンゾと共に本気の涙を流してしまった。いつの間にか大人になり、それなりに人生と折り合いをつけてしまった自分が恥ずかしいような気がした。
いつの間にわたしたちは、あの不器用さを失ったのだろう。苦しくて、もがいて、人生から逃れたかったあの頃。二度と戻りたくない時代だけれど、涙が出るくらい懐かしいのはなぜなのか。つまりそれを私たちは「青春」と呼ぶのだろう。
青春が美しく楽しいなんて嘘だ。私の青春もエンゾのそれのように、みっともなくて辛かった。「でもそれでよかったんだ」、と、わたしは涙しながら思った。
『君の見る世界をなぞる』
8月21日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開
■原案:ローラン・カンテ(『パリ20区、僕たちのクラス』)
■監督:ロバン・カンピヨ(『BPM ビート・パー・ミニット』)
■出演:エロワ・ポユ、ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ、エロディ・ブシェーズ、マクシム・スリヴィンスキー ほか
2025年|フランス、ベルギー、イタリア|フランス語、ウクライナ語|カラー|ヨーロピアンビスタ|5.1ch|102分
PG12|原題:ENZO|字幕翻訳:リネハン智子|配給:樂舎
©Les Films de Pierre / Lucky Red / Page 114 / Les Films du Fleuve / France 3 Cinéma / AMI, Alexandre Mattiussi

