生まれて初めての「生きる喜び」

エンゾが人生で初めてのときめきを感じるのは、同じ職場で出会ったウクライナ人のヴラド。

彼は徴兵の通知を受け取っているが、まだ兵役に就かずに、舞台である南仏の建築現場で働いている。「今はまだ行かない。でもそのうち行くだろ」と仲間に話すヴラドは、「人生の真実を背負った聖人」のように、エンゾには見えたに違いない。

『君の見る世界をなぞる』場面写真 エンゾ(エロワ・ポユ)とヴラド(マクシム・ スリヴィンスキー)
(c)Les Films de Pierre

死と向き合う戦地に行くことを覚悟しているはずのヴラドは、それでも淡々と建築現場の作業をこなし、兄のようにエンゾを構う。

学校に行かず、黙々とレンガを積むエンゾに、「ガールフレンドはいるのか?」と聞き、「クラブに行ってみるか?」と誘い掛け、大人への階段へと導いてくれる。大人の男たちが集まる職場に入り込んだ少年にはありがちな出来事だが、それがなんともみずみずしく描かれるので、既視感は全くない。

ヴラドと過ごす時間に、エンゾは生まれて初めての「生きる喜び」を見出していく。それは何と素晴らしい体験だろう。学校にも行かず、ガールフレンドも作らない内気な少年が「人生で一番楽しい時間だった」と、感じたのだから!!