初めての恋は深い傷

『君の見る世界をなぞる』場面写真 エンゾ(エロワ・ポユ)
(c)Les Films de Pierre

相手が異性だろうと同性だろうと、初めての恋のときめきの切なさは誰でも同じだ、せつなくて、甘くて、痛い。それは事実として性の衝動とも結びついているから、本人は戸惑うしかなく、疼く思いの開放は困難を極める。エンゾは苦しさの中参加したホームパーティーで、自分の兄にダンスしながら額を寄せ、初めて会った若い女の子の体をまさぐってしまい、「家の恥だ!」と兄に殴られてしまう。

ヴラドにも不器用な思いをぶつけて拒否され、心を閉ざすエンゾ。すると今度は「その態度はなんだ」とヴラドからつかみかかられる。ヴラドは同性愛者としては応えられなくても、ちゃんとエンゾを愛しているのだ。弟、或いは友人として…。だが、この出来事をきっかけに、物語は急展開を迎える。

誰でも経験するような繊細な感情のやり取りが、「エンゾの見る世界をなぞる」ように描かれる。美しい画面と魅力的な人物たちの一挙一動から私たちは目を離せず、ゆっくりしたテンポの作品だが、飽きることがない。

それはたったひと夏のこと。作品ではいつも蝉の声が遠くで響いている。恋はかなわず、秋になる前に、きっと別れの時は来てしまう。

でもそれは深い傷のように私たちの心をえぐり、子ども時代と決別させ、人生の扉をこじ開けていく。そうだ、初めての恋は深い傷なのだ。忘れることが決してない痛みーーー。

鮮烈な青春の感情が、南仏の深い海の色、おい茂る木々の濃い緑、短い命の絶唱のような蝉の鳴き声と共に、私たちの心に浸み込んでくる。