休職が必要かの見立て
患者が「会社に行かないといけないと思うと死にたい気持ちが出ます」と訴えたとする。それが事実なのか、それとも「会社を休むための口実」なのかは、患者本人にしかわからない。われわれができるのは、患者の訴えをできるだけ詳しく聞き、その情報をもとに診断することだ。精神科医は嘘発見器(4)にはなれない。
私としては、初診で安易に休職を勧めることは避けたい。正しい精神科診療には「経過を見る」という視点が欠かせず、受診当日に病名を確定できないケースも珍しくないからだ。
長野さんは何度か「でも」「やっぱり」と休職診断書が欲しい素振りを見せたものの、最終的には「わかりました」と言って病院をあとにした。納得してくれたのだとばかり思っていた。
ところが、1週間後の予約日、長野さんは来院しなかった。
予約日に現れない本人に事務職員が電話したところ、「オンライン診療にしたので、そちらにはもう行きません」と告げられたという。長野さんは私の対応が意に沿わず、オンライン診療を頼ったのだ。
休職が必要かの見立ては精神科医の裁量次第で、明確な基準はない。ただ、ある程度経験を積んだ精神科医なら、治療上休職の必要性(5)についての判断は自然と身につくものだ。
一方で、長野さんが受診したというオンラインクリニックには「即日休職診断書出せます」という消費者金融のようなキャッチコピーを掲げるところもある。長野さんはきっとオンライン診療で休職診断書を手に入れたのだろう。
(4) 本音を言えば患者の嘘はたいていわかる。「話す内容が一貫しているかどうか」は精神鑑定でも重要な視点で、経験を積んだ精神科医なら、患者の嘘を見破ることは難しくない。とはいえ、患者に「それ、嘘でしょ」などと言ったら、クチコミ0点をもらうだけなので指摘することはない。
(5) 最近、休職目的でメンタルクリニックを受診する人が増えている。そして、病休となる人のほとんどが“傷病手当金”を申請する。申請が通れば、休職中も通常の給与の約3分の2が支給される(公務員だと“病気休暇”が認められれば3〜6カ月のあいだ、給与の100%が支払われる)。これらは本当に働けない状態の人にとっては非常に大切な支援制度であるが、軽率な診断書発行により、実際には不要な人にも給付されているケースがあるのも事実だ。社会保障費の負担が増え続ける中、こうした状況が続けば、本当に必要な人に支援が届かなくなるのではと危惧している。
※本稿は、『精神科医おどおど日記――閉鎖病棟24時、本日当直、あらゆる精神疾患寝ずに診ます』(発行:三五館シンシャ、発売:フォレスト出版)の一部を再編集したものです。
『精神科医おどおど日記——閉鎖病棟24時、本日当直、あらゆる精神疾患寝ずに診ます』(著:駒木爽/発行:三五館シンシャ、発売:フォレスト出版)
――正常ってなんですか?
精神科救急病院で10年以上勤務している精神科医が語る、きれいごとでは片付かない医療現場のリアル。




