仔猫チャンとウーマン・リブ

ひとり暮らしに少し自信を持ち、洋服を2着半つくり、セーターを1枚つくり、芝居を見にだけきたんじゃないぞ、と思ったので、芝居はあんまり見ないで、そのかわりいろんな人生を見て、私は、帰ってきたのです。

女優をやっている時は、家をスタジオの往復で、そして、逢う方がだいたいきまっていて、その中で人生を演じていくわけなんだけれど、やっぱり、仕事しないで、ジーッといろんな人を見るのは(それが、本当の人生っていいますかね)、いままで、私たちが演じ、創ってきた人生とはまったくちがう人生を、見てきたのは、身になったと思うのです。

でも、それとは逆に、ある種、絶望感みたいなものが、この1年でさらに、深まったような気もします。

人間って、生きていくのが、とてもツラくってね。アメリカ人であろうと、日本人であろうと、何人であろうと、とくに女が生きていくのはとても大変でね。生きていくのはできるかもしれないけれど、傷つかないように、気も狂わずに、自殺をしようとも考えずに、生きていくのは、とても大変だと思って。

それは、アメリカで逢った、たくさんのお婆さんのせいかもしれない。——

さて、これはあくまでも私の考えなんだけれど、アメリカでも、男の人は、離婚するとお金がかかるし、ナンノカンノといろんな風当たりが強いしで、そう、簡単に別れられないのね。

日本では、離婚の原因に「性格の不一致」が多いんだけれど、ハリウッドの俳優さんなんかだと「精神的虐待」というのがなんとしても、多いの。精神的虐待とは、肉体的に旦那さんが、カマワナイってことだそうで、それが離婚の原因の第1位になるのは、とにかく結婚しているかぎり、つねに全面的に夫は妻を、不満足にならないようにしなければいけないわけね。

名前を呼ぶのでも、日本だったら「バァさん」とか「オマエさん」というところを、どんなにトシとっていても「オジョウチャン」と呼んでみたり、「カワイイコネコチャン」と呼んでみたり「シュガー」って呼んでみたりするわけね。「シュガー」なんて、どう訳したらいいのか、「私の可愛い、お砂糖ちゃん」だかなんだか。その人が70になっても、80になっても、いうわけね。

そして、むこうの人は、うんと親しくなると、よその奥さんが、よその旦那さんの唇にキスしたりなんてことは、日常茶飯事なんで、キスしたからどうってこと、まったくないんだけれど、それが——

また話かわるんですけど、若い女の子が、初めて男の子とキスするなんていうと、タイヘンなのね。あ、もう今日はタイヘンダタイヘンダなんて、私の友だちの娘がいってね、今日もうキスしちゃったっていってね。私、びっくりして、キスしちゃったって、毎日毎日してるのにと思うんだけれど、習慣的儀礼的キスでなく、自分で愛情をもってする初めてのキスは問題になるんだなって、ちょっとうれしかったんです。——

とにかくそんなわけで、のべつまくなし、旦那さんが、どんなお婆さんになった奥さんでも、抱いたりキスしたリするのよね。もうしょっちゅうしょっちゅう。

で、アメリカってのは、行くまでわからなかったんだけど、女の立場が弱いのね。女の人が強い、強いっていわれるのは、結局、立場が弱いからなのね。

私の演劇の女の先生が、あんまりうまいので、演出家になれるのに、なろうと思わなかったの、といったら、なんせまだ、ブロードウェイは、男の世界で、男の人には、女に何ができるか、というところがあるんだって。

一度やってみたけど、演出家は、みんなが協力してくれなかったら、芝居なんか絶対、できませんからね、って。そういえば、少なくとも、名前のあげられる女の演出家っていうのは、いないのね。日本は何人かいらっしゃるのに。やっぱり女の方は、まだまだ、なんか認められない。だから、ウーマン・リブがアメリカで出てきたの、わかるような気がしました。