都内で夫なし、子なし、冷蔵庫なし、ガス契約なしのフリーランス生活を送る、元新聞記者の稲垣えみ子さん。50歳で会社を辞めたことをきっかけに「買わない生活」をはじめた稲垣さんは「私は『買わない』ことですべてを手に入れたのだ」と語ります。そこで今回は稲垣さんのエッセイ『買わない生活』より一部を抜粋してお届けします。
生きていくのにいくら必要か
会社を辞めることを想定して私が真っ先にやったことはもちろん、何はともあれお金の計算であった。「辞めても地獄」ならば、地獄(=給料をもらえない人生)の歩き方を具体的に検討せねば始まらない。
ってことで、まずは生きていくのに最低限必要な食費、家賃、その他の費用を自分なりに一生懸命計算した。
改めてこう書いてみると、そもそもそんなことは会社を辞めようが辞めまいが普段からやっておくべきことのような気もする。だが自分に限っていえば、そんな計算をしたことは一度もないどころか、やってみようと考えたことすらなかった。
なぜかといえば、お金といえば「もらえればもらえるほど良し」としか思っていなかったからである。「最低限の生活」のことなんて想像する必要がない自分をむしろ素晴らしいと思ってきたからである。まずは何よりもその雑でステレオタイプな考え方から改めねばならない。お金とはまずは、死なないためのもの。死なずになんとか生き残っていくには一体いくら必要か、それを真面目に計算しなければ、給料に依存し切った人生から一歩たりとも抜け出すことはできないであろう。
何事もやってみるものだ。というか、これまでの人生でこのような計算を一度もやろうとしなかったことが心の底から悔やまれた。
なぜって、想像もしなかった心強い事実が判明したのである。