金(ゴールド)が魅力的に見える心理的メカニズム

それでも金(ゴールド)が魅力的に見えるのは、私たちの認知バイアスが関係している。

行動経済学が明らかにした損失回避によれば、人は同じ金額でも利得より損失を約2倍強く感じる(Kahneman and Tversky, 1979)。不安なニュースが流れるたびに、「資産が目減りするかもしれない」という恐怖が増幅され、「安全資産」という響きを持つ金(ゴールド)に惹かれてしまう。

『思い込みの経済学-AI時代のお金・仕事・社会』(著:大竹文雄/中央公論新社)

損失回避は、私たちの日常的な意思決定にも深く影響している。「金融リテラシー調査2022年」によれば、10万円を投資して半々の確率で2万円の利益か1万円の損失が生じる投資機会に対して、74.2%の人が「投資しない」と答えている。平均的に得られる収益率は5%でプラスなのに、損失の可能性を極端に嫌うのである。

問題は、私たちが投資機会を一回ごとに独立して評価してしまう「狭い括り」の傾向を持つことだ。もし同じ投資機会が100回あると考えれば、期待収益50万円になり、損失が生じる確率は0.1%を下回る。しかし、目の前の一回に注目してしまうと、損失の恐怖が意思決定を支配してしまう。

また、直近バイアスも働いている。「金(ゴールド)価格が最高値を更新」というニュースを見ると、人は直近の上昇トレンドがこれからも続くと錯覚しやすい。しかし、過去の価格上昇は、将来の上昇を何ら保証しない。むしろ、すでに大きく上昇した後に買うことは、高値づかみのリスクを高めることになる。

仮に、あなたが最近の金(ゴールド)価格上昇で利益を得たとしても、それを「自分の判断力が優れていた証拠」だと考えるのは危険である。行動経済学で知られている自己帰属バイアスは、偶然の成功を自分の実力の成果だと錯覚させる。「自分には相場を読む才能がある」という過信は、次により大きな賭けに出ることを正当化し、長期的に資産を毀損する典型的なパターンを生む。