正社員は一人増やすだけでも大変
さて、このタテ社会のピラミッドの一番下にいるのは医員である。専攻医が終わったあとは医員になる。医員とは非正規職員である。契約の形態は日々雇用。当然ボーナスは出ない。日給は昔も今もほとんど変わっていなくて、1日1万円くらいである。そうすると、年収は夜間当直の手当を含めて300万円くらい。当然アルバイトをしないと生活できない。これじゃ、家族を養えない。結婚もできないかもしれない。
正社員にはきっちり決まった定員があって、これは微動だにしない。大学が独法化される2004年までは、大学の医者は文科省の正式な職員だったので、一枠でも増やすためには文科省の許可が必要だった。これは簡単ではない。ちょっと昔話を挟んでおこう。
小児外科が診療科だったとき。たくさんの業績を重ねてようやく講座になることが決まった。それまで小児外科は教授・講師・助教二人の四つの枠しかなかった。講座になるにあたり、准教授のポストがつくかつかないかという話になった。
その当時の医学部長が、准教授のポストを獲得しようと文部省と折衝する中で、意外なことが分かった。全職員(助教以上)の名簿の確認作業をやっていたら、なんと、職員数が文部省から割り当てられた数より一人多かったのである。ま、おおらかな時代だったわけだ。
しかし文部省はそれを知って、小児外科にポストを増やすことを許さんと言ってきた。当科の故・高橋英世教授は顔を真っ赤にして(もともと酒さで顔が赤い)、医学部長に言い募った。
「全職員の働きぶりを調べろ。一番働いていない奴を辞めさせろ!」
これはいくらなんでも……。結局、医学部長が粘り強く文部省と交渉して、小児外科は講座になり、准教授のポストも得ることができた。正社員は一人増やすだけでも容易ではなかった。
※本稿は、『大学病院の正体-手術、人事、教育、研究のすべて』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
『大学病院の正体-手術、人事、教育、研究のすべて』(著:松永正訓/中央公論新社)
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