敗者に光を当てる
一方、明誠学院大の陸上競技部では監督が交代する。ベテランの諸矢が退任し、新たに甲斐が就任した。諸矢は予選会で失敗した青葉に対し、「前から決めていた。おまえのせいじゃない」と説く。
実際にそうだ。諸矢は自らの方針に選手を従わせる指導スタイルに限界を感じていた。諸矢は選手の心身を包み込むタイプの監督だった。
甲斐はクール。陸上競技部OBで、箱根駅伝のエース走者だった。現役の商社マンだが、1年間休職し、監督に就任した。指導スタイルは諸矢とかなり異なる。
甲斐は選手の自主性を重んじる一方、考えて走ることを求めるらしい。もちろん勝ちにはこだわる。
甲斐は全選手の前でこう宣言した。
「再び箱根へ行く。私の目標はそれしかありません」
この物語の狙いの1つがぼんやりと見えた。諸矢と甲斐の指導スタイルを対比させることにより、現代の若者との向き合い方を考えさせるつもりだろう。「今の若者は分からない」と嘆くばかりでは、世代間ギャップは埋まらない。
箱根駅伝の予選会で11位の大学は、本選にオープン参加する学生連合チームの指揮を執る。今回の監督は明誠学院大だ。このチームも甲斐が担当することになった。
学生連合チームの選手は、予選落ちした大学から選抜される。明誠学院大は選手候補として青葉を送り出した。
選手に選ばれれば箱根駅伝を走れるが、2015年以降はオープン参加となったため、現在は順位が付かない。記録も参考値となる。敗者たちのチームである。
ところが、甲斐は学生連合チームに向かって、目標を「3位以上」と宣言する。選手たちからどよめきが広がった。オープン参加になって以降、往路と復路の総合で10位相当の成績を収めたことすらないのだ。
ただし、甲斐は突拍子もないことを言ったわけではない。実際、まだ正式参加だった2008年には、過去最高の4位になった。
走ったのは、黄金時代を迎える前の青山学院大、本選への出場歴のない上武大などの選手たち。敗者たちの雪辱に、沿道は激しく沸き立った。この物語であの興奮が再現されるのか。
諸矢による「素晴らしい敗者がいるから勝者は輝く」という言葉といい、この物語は敗者にも光を当てるつもりだろう。