琵琶湖畔を走る愛犬ハリー(撮影:村井理子)

体調は万全とは言えなかったが、緊急入院直後に比べたら、格段に調子はよくなっているような気がしていた。個室の大きなガラス窓からは、雪がちらつく様子が見えていた。すっかり季節は冬だ。私以外の世界のすべてはいつも通り動いている。でも、私は? その疑問への答えは、すぐには出そうにもなく、不安な気持ちを抱えたまま、目を閉じるしかなかった。お願い。どうかどうか、すべてうまくいってくれ。

 

とにかく、ゆっくりと休んでいてください

しばらくうとうとしていたようだった。控え目なノックの音が聞こえ、男性の「失礼します」という穏やかな声が聞こえた。目を開けると、ベッドの横に若い男性が立っていた。眼鏡をかけた優しそうな人だ。緊急病棟で何度か会話を交わした、2人の担当医のうちのひとりで、S先生だとすぐにわかった。

「胸部レントゲンを見たんですが、胸水が抜け切れていないようですね。今日から利尿剤を強めのものにします。この利尿剤、とてもよく効くんですよ。がんばって下さいね。個室だからトイレがついていますし、まあ、大丈夫だとは思います。その利尿剤をしばらく試して頂いて、そして再度レントゲンを撮影します。とにかく、ゆっくりと休んでいてください。まだまだ脈が速いですから、気をつけつつ、ゆっくりと過ごしてください」と彼は言った。そしてちらっと私のiPadを見て、「できる限り、ゆっくりしてくださいね」と念を押し、病室から出て行った。