ミンアウンフライン国軍最高司令官は、国家権力の掌握が正当であることを主張しています。しかし、アウンサンスーチーの拘束容疑である輸出入法違反(私設警備隊が所持していた無線機が対象)は、軍の部隊を突入させて身柄を拘束するには、あまりに軽微な罪です。非常事態宣言発令の根拠となった選挙不正疑惑も、十分な証拠があるわけではありません。

今回の国軍の行動は、法的な正当性も、政治的な正統性も、ともに欠けているようにみえます。事実上のクーデターだといってよいでしょう。では、この事実上のクーデターがロヒンギャ問題にどういった影響を与えるのでしょうか。

難民キャンプの学校で学ぶ子供たち(2019年8月筆者撮影)

ジェノサイド疑惑を否定したのはアウンサンスーチー

多くのロヒンギャは、アウンサンスーチー政権を決してよい政権だとはみていなかったと思います。約70万人の難民流出は、彼女の政権下での出来事でした。大規模な人権侵害が起きたとされる国軍の掃討作戦は、当時の大統領(アウンサンスーチーの側近)の承認を受けて実行されています。国際司法裁判所(ICJ)でジェノサイド疑惑を否定したのはアウンサンスーチーです。

そのアウンサンスーチーらが拘束されて、国軍が国家を掌握したことを肯定的に受け止めているロヒンギャたちも一部ではいるようです。ですが、今回の件でロヒンギャ問題の解決が早まることは、まずないと思います。

その理由はなによりも、国軍がナショナリストの集団だからです。ミャンマー国軍には、国防という一般的な軍隊の役割を越えた、国家の守護者という独特のアイデンティティがあります。そのアイデンティティのもとで、ムスリムであるロヒンギャを、仏教国ミャンマーの国家安全保障上の脅威だと国軍はみなしてきました。ロヒンギャも多くは軍政下の故郷に帰ることを希望しないでしょう。