松任谷正隆さんのエッセイ『おじさんはどう生きるか』中央公論新社刊

スー 頼られたらほだされてしまいそうですが、真逆のことを言ったことに対してちゃんと怒ったというのは、おふたりが向き合っているという事実以外のなにものでもないと思って。40年以上も一緒にいてなぜ別れずにいられるのか、教えてほしい。(笑)

松任谷 相手がどう考えているかわからないけれど、もし生理的に嫌になって別れたとしても、別の人とやり直して今よりよくなるってイメージが持てないからじゃないかな。

スー それって、お互いに「かなりいい」という自覚があるからですよね。

松任谷 うーん。人間関係なんてこんなもんだということじゃないですか。

スー 過剰な期待をせず、相互理解を完璧にせず、ということですか?

松任谷 人間関係に完璧はないからね。じゃあ僕からも聞いてしまうのだけど──セクハラって、どうして男から女に向けたものばかりで、逆はないんだろう。

 

性別ではなく、問題はどちらに権力があるか

スー 女性が権力を持つ側に立てば、逆も当然あると思います。私は、自分の中にステレオタイプなおじさんがいると感じることもあって。

松任谷 というと?

スー たとえば私がラジオ番組の若い男性スタッフに「ご飯行こうよ」と誘った時、相手は「いいですね」と答えても、内心は嫌々かもしれない。帰りのタクシーで私が眠りこけ彼の肩にもたれたのを、「セクハラだ」と訴えることもありうる。性別ではなく、どちらに権力があるかという問題かと。

松任谷 なるほど。

スー だから、権力を持つ女性にとっては、現実問題として今起こりうる話です。