数えきれないほど家族会議を重ねて

でも僕の誕生日がくるたび、「おめでとう。ところで覚えてる?」、帰省するたび、「おかえり。ところで延命治療はしないでね」とかれこれ20年以上言われ続けてきたせいか、がんのことを打ち明けられて真っ先に頭に浮かんだのが、延命治療のことでした。

僕の性格を知り尽くしている母ちゃんは、いざというときに効果を発揮するよう、長年かけて着々と仕掛けていたんだと思う(笑)。ことあるごとに言われていたので、母ちゃんにとって大切な意思であると、僕も理解できていました。

でも、手術から2年後に再発。このときの母ちゃんは、「手術はもうしない」と、はっきり意思を固めていました。手術後、激しい痛みに苦しんだこと。そして、いまの自分にはもう一度手術を受けられるだけの体力がないこと。だったら、このまま最期までがんとともに暮らしていく、と。

家族としては、一日でも長く生きていてほしい。だから僕も手術以外の治療法はないか、手を尽くして探したし、提案もしました。でも母ちゃんの考えは変わりませんでしたね。

父ちゃんや弟とも何度も家族会議を重ねて、最後は「母ちゃんの意思を尊重しよう」と3人で納得するしかなかった。2人の本音は、正直なところわかりません。だけどこれは母ちゃんの人生だから、好きなように生きればいい、としか言えない。ストレスのかかる治療を無理やり押しつけて、一日でも長く生きることを望むのは家族のエゴでしかないですから。

淡々と死と向き合う母ちゃんの姿を見るのはつらくて、あんなに泣きながら何度も弟と電話し合ったこともなかった。でも3人が一切ブレなかったことで、母ちゃんらしい人生の閉じ方を最後まで見守ることができたのだと思います。ほんと、死に方って生き方なんですよ。