関さんが「男性としてドキドキした」という、十二代目市川團十郎さんと(写真提供:関さん)

十二代目團十郎さんが語った〈宇宙〉

『中村勘三郎楽屋ばなし』を書き上げるために、結局4年の歳月がかかりました。その間、助けてくれたのが、当時勘九郎だった十八代目中村勘三郎さん。「今日の親父の機嫌は、嵐だよ」など、〈天気予報〉を伝えてくれたのです。そういう時は、用心してお父様には近づかないように。そんなわけで親子二代のご縁となりました。

その後、勘三郎さんの本も書きましたし、『花の脇役』という本の出版パーティーの際は、「俺、その日は受付するよ」。当日、お釣りや領収書などすべての雑務をこなしてくださいました。受付4、5人が並ぶなかもちろん勘三郎さんの前には長い列ができました。

十二代目市川團十郎さんとは、まだ海老蔵だったお若い頃から何度もお目にかかっていますが、ある時、「舞台の揚幕の先に宇宙がある。そして、自分の身体の中にも宇宙がある」とおっしゃった。「あなたの身体の中にも宇宙があるから、今、宇宙と宇宙が話をしているんですよ」。並外れてスケールの大きなお方です。

その十二代目團十郎さんが、私の顔を「福相ですね」と言ってくださったことがあります。ある時、「三代にわたる團十郎さんのご一家のことを本に書きたいので協力していただけますか?」と申しましたら、「もうちょっと先。何年かしたらね」というお返事。

「そんな先だったら、私、生きてるかしら」と言うと、「関さんは福相だから大丈夫」。團十郎さんこそ、大らかさと優しさが滲み出たまさに福相だったのに、あんなに早く亡くなられるなんて……。66歳でした。その2ヵ月前に亡くなった十八代勘三郎さんは57歳。

勘三郎さんは私のことを「母親代わりだ」と言ってくれましたが、私よりずっと大人だと感じることがありました。男性としてドキドキしたのは團十郎さんですね。素敵でした。

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