お薬カレンダーに飲む薬を入れていても

こうして不可解な言動が増えてきた。テレビを見ていて、「今すぐお電話でお申し込みください」と言われると、父は不要なものを注文してしまう。何年もゴルフをしていないのに、何枚もポロシャツが届く。世界の景勝地の映像が収録されているDVD全12刊。セミダブルのベッドに寝ているのに、シングルの組布団用のシーツも買っている。

「使わないものを、どうして3枚も買うの!」

「2枚買ったら、もう1枚プレゼントで付いてきたんだ。俺のせいじゃない」

「いずれにしても、使わないものでしょ。無駄遣いはやめて!」

「あの世に金は持って行けない。何に使おうと俺の勝手だ!」

毎日こんな言い合いをしながら迎えた2021年の春。父のかかりつけの医院から、電話がかっかってきた。

「30日分の薬を出したのに、半月もしないうちに、飲んでしまったと言って、今日来院されました。記憶力の低下が見られますし、運転して来るのも危ないですから、やめさせてください」

「申し訳ありません。私が連れて行く約束になっていたのですが、一人で行ってしまったんですね。今後気をつけます」

他人にも迷惑や心配をかけていることを知り、父の意思を尊重する生活を続けていくことの限界を感じた。

(つづく)

◆本連載は、2024年2月21日に電子書籍・アマゾンPODで刊行されました