嶋さんが暮らす自宅のリビング。これまでに制作した切り絵やコラージュ作品に囲まれて。チラシの切り抜き以外にも、紙を使った繊細かつ大胆な作品が並ぶ

日記みたいに1日1つずつ

新聞バッグは、2015年に裕子さんがバリ島を旅行したとき、「現地のおみやげ屋さんが使っていたのを『お母さんは紙のものが好きだから』と持ち帰ってくれて。自分でも、いろいろ折り方や取っ手の太さを工夫して作ってみたのが始まりです」。

翌年の夏、嶋さんは原因不明の背中の激痛で入院。腰椎化膿性脊椎炎と診断され、背骨にボルトを入れる大手術をした。退院後もコルセットが手放せず、家の中でも車椅子を使うような不自由な生活。

「でも私は、何かしら手を動かしていないと落ち着かないんです(笑)。大きなコラージュを作るのは難しいけれど、新聞バッグならテーブルの一角で作れるからいいわと思って」

それを、ちょうど抽選に当たった区民ギャラリーの個展で展示しようと考えた嶋さん。

「コロナ禍で先が見えない毎日の中で、日記みたいに1日1つずつ作品にするのも面白いのではと考えました」

今回の展示を通じて作品が多くの人の目に触れる機会を得た嶋さんは、数年ぶりに特大キャンバスを注文。コラージュ作品の続編に挑むつもりだという。裕子さんも「夢は母の若い時からの作品を集めた回顧展です」とエールを送る。嶋さんの人生に、今後も注目していきたい。

1:玄関に飾られていた切り絵作品「ラフレシア」。編み目のような紙の地層の表面をよく見ると、細い紙がひとつひとつ結んであり、それにより立体感が生まれている
2:都市の建築物の切り抜きコラージュを貼り付けた箱を開けると、色画用紙を細かく切り抜いた地層が現れる。四角い箱は「Look Inside」シリーズ。「都会の地下の広がりを表現したの」(嶋さん)。丸い箱は「ガウディ」。
3:チラシの切り抜きはハサミで。細かな模様をくり抜く際はカッターを使用する

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