いちばん大事なものをあげる人
もうすぐ卒園式という日、次男の幼稚園の先生から電話がありました。
「あのー、息子さんがとっても高そうなアクセサリーを持ってきているのですが」と少し口ごもりながら言います。慌てて幼稚園にかけつけると、先生がイヤリングとネックレスを手に待っていました。両方とも、私が大事にしているものです。
「これ、どうするつもりだったの?」ときくと、「Kちゃんにあげるの」と息子が答えました。
Kちゃんは息子と同じクラスの、えくぼがかわいい女の子です。
そうか、これは息子の初恋なんだ! お別れの前に、大好きな女の子にプレゼントしたかったんだ!
「でもね、これは、お母さんのいちばん大事なものなのよ」
「それじゃあ、ぼくのいちばん大事なものをお母さんにあげる」
「いちばん大事なものって、なに?」
「ラーメンマンのキンケシ」
ラーメンマンというのは、そのころ子どもに人気があったアニメの登場人物。キンケシとはその番組のキャラクターの小さな消しゴム人形のこと。
子どもにとっては、お母さんのいちばん大事な宝石と、自分のいちばん大事な消しゴム人形は同じ価値だったんです。ただし、その消しゴム人形では女の子は喜ばないと思ったのでしょう。
子どもっぽい行動だけど、いちばん大事なものをあげたくなる人がいるなんて、息子を見直しました。
ついこのあいだまで、タオルのはじっこをしゃぶってないと寝られなかったのに、「火の用心」の声をこわがって、私のふとんにもぐりこんできたのに、もう「お母さんがいちばん」ではないんです。ちょっと嬉しいけど、ちょっとさびしい気分。
本当にいちばん大事なものを大事な人とプレゼントしあうような、素敵な大人になってほしいと願っています。