今年最初のお教室の風景。作品に集中したり、伊藤さんに質問したり。4~5時間ほどかけてじっくり取り組む

美しいものを作る。その気持ちでつながって

サロン形式でお教室をやるようになって70年近くになるのかしら。生徒さんのなかには、60年以上通っている方が何人もいますし、皆さん長いお付き合いになりました。コロナ禍で人数が減ったとはいえ、40代から90代まで今も40人ほどが通っています。

新卒で就職した頃から通う生徒さんが65歳で定年を迎えたと聞いた時は、さすがに年月の経つ早さに驚きました。コロナ禍の前は、生徒さんたちと国内外へ、編み物をめぐる旅をしに行ったりもしました。もはや親戚よりも近い関係です。

女性だけの集まりですが、トラブルが起きたことは一度もありません。みんないい人ばかりなんです。生徒さんたちは、うちのリビングのソファで手を動かしながら、嬉しいこととか、時には悲しいことも話します。

病気で体調を崩したり、家族の介護が始まったり、長く生きればみんないろいろあって当然。私の夫も10年前に、84歳で突然亡くなってしまいました。前夜まで元気で、二人でカステラを食べたりしていたのに、翌朝、目覚めなかったのです。脳溢血でした。

たとえつらいことがあっても、うちに来れば作品に集中できる。ここでは全員が美しいものを作ろうとする気持ちでつながっているのだと思います。だから私も生徒さんひとりひとりの作品に真剣に向き合うんです。デザインや色合わせなどを夜なべで考えることは今もありますよ。

伊藤さんが生徒さんのために書いた編み図。「細かい編み目の計算もパパッとできるので驚きます」と生徒さん。編み棒は竹製を使用している