69歳で天職を見つけた人も

60代で農業を始めたカップル、仕事をやめて自分の店を始めた人など、身近にいそうな人々の談話もあるが、なかには70歳でバーレスク・ダンサーになった人や、64歳でパイロットの免許を取り、現在は宇宙飛行士候補者の公募に応募中という人なんかもいて、いくつになってもその気になったら人は何だって始められるんだなあと感心させられる。

70歳になる手前でトランスジェンダーをカムアウトした人の体験談も印象的だった。68歳で大腸炎にかかって入院していた間に、それまであまり使わなかったインターネットを見ていたら、トランスジェンダーの著者が書いたブログを見つけたという。それを読んでいると、自分が感じた過去の痛みと重なってきて、きちんと向き合わなければいけないと思うようになったそうだ。結局、40年以上連れ添った妻にトランスジェンダーであることを告げ、2人で地元のサポートグループに通うようになった。不思議なことに、トランスジェンダーをカムアウトすると大腸炎が治り、手術の必要がなくなったらしい。もし自分が10代や20代のときにインターネットが存在していたら、もっと早くにカムアウトしていただろうという本人の言葉が印象的だった。

69歳で心理カウンセラーになった人の話もあった。60代でデンマーク語を学び、デンマークで資格を取ったそうだ。いまはノルウェーで虐待を経験した移民たちのカウンセリングを行っているらしく、ようやく自分の天職を見つけたと語っていた。天職なんて誰もが若いときに見つけられるとは限らないし、もしかすると年齢によって天職は変わるものなのかもしれない。

そういえば……と思い当たるフシがある。わが家にも60代の人間がいるからだ。該当者である連合いは現在、がんの治療中だが、昨年末、がんを宣告された直後にコロナに感染し、一時は「覚悟をしてください」と家族が言われるような病状に陥った。が、幸運にも一命をとりとめた後で、彼はこんなことを言ったのである。