イギリス在住のブレイディみかこさんが『婦人公論』で連載している好評エッセイ「転がる珠玉のように」。Webオリジナルでお送りする22.5回は「遅すぎることはない」。英国の人々がよく口にする言葉に「Never too late」がある。その言葉通り、いくつになっても新しい事にチャレンジする人が大勢いる中で、60代の連合いの病気が治ったらやりたいこととは――

「Never too late」

英国の人々がよく口にする言葉に「Never too late」というのがある。「Never too late to learn(学ぶのに遅すぎるということはない)」「Never too late to start(始めるのに遅すぎるということはない)」というふうに使われ、「いくつになっても新しいことは始められる」という意味だ。

英国に来てわたしが驚いたことの一つは、この国にはいくつになっても新しいことにチャレンジする人々がいて、世間もそれに対してとやかく言ったりしないということだった。日本なら、20代の頃は新人で、30代、40代で中堅になり、50代でキャリアが出来上がり、あとは引退を待つ、という構図があったように思うが、この国は違う。いくつになっても「やりたいときが始めどき」とばかりに新たなキャリアに挑戦する人が多く、50代で看護師になるためにカレッジに通う人や、50歳の誕生日の直前に銀行員をやめてガーデナー(庭師)の見習いになった人に会ったこともある。

そうした「Never too late」文化を体現するような連載が英紙『ガーディアン』で始まった。タイトルも「60歳の新たなスタート」。60代で人生の大転換に踏み出した人たちのインタビューの連載だ。