本人の思い、周りが止める勇気

徐々に練習の強度を上げる柳田本人とも話をしました。「大丈夫か」と聞いても、「大丈夫です」としか言いません。「将来をつぶすわけにはいかない」と言うと、「つぶれてもいいです。今が大事です」と答えます。

気持ちは痛いほど分かりました。私自身も北京五輪の時には臀部(でんぶ)を痛めていて万全な状態ではありませんでしたが、「残りのシーズン出られなくてもいい」と思いながらプレーしました。

ただ私の場合は慢性的な痛みでもあり、今回の柳田は突発的な、しかもより深刻な故障でした。

柳田をよく知る人たちからは「柳田が『大丈夫』と言う時は、ほかの選手にしてみたら結構重症だったりする」という話も聞いていました。本人の思いも汲みつつ、我々が止める勇気を持たなければなりませんでした。

最終的には、ティー打撃でかなり強めにスイングできていたこと、磁気共鳴画像(MRI)でも悪化はしていないことを確認し、選手の入れ替えはせず、そのまま本番も柳田と一緒に戦うと決めました。7月22日のことです。

翌23日に球場のコーチ室に本人を呼び、「28日の五輪初戦にコンディションを合わせてくれ」と伝えました。少し「ドッキリ」風に深刻そうな顔をして切り出したので、最初は心配そうな顔をしていましたが、外されないと分かってうれしそうだったのが印象的でした。