「何のために働くのか」
もっとも、このドラマの最大の魅力は違うところにある。それは「何のために働くのか」を見る側に問い掛け続けている点だ。ライアーだったころの永瀬なら「金のため」と即答しただろう。
永瀬の同僚でライバルの桐山貴久(市原隼人)は「自分がのし上がるため」と考えているように見える。強い上昇志向を感じさせるためだ。
月下は「お客さまのため」と答えるはず。「カスタマー・ファースト」が口癖だからである。
もちろん、この問いに対する正解は存在しない。けれど、見る側が一番共感したのは石田の言葉だったのではないか。
石田は50年以上、和菓子店をやっていたが、ちっとも儲からなかった。それでも店を続けた理由が永瀬には分からなかった。その疑問に石田はこう答えた。
「大した理由じゃない。オレの菓子食うと、みんな幸せそうな顔するんだ。だから続けられた」
これに永瀬は「それは1円にもなりませんね」と正直な感想を漏らすが、石田は「でも仕事っていうのはそういうものだ」とうれしそうに笑った。
このドラマは永瀬が突如として正直者になるなど設定は荒唐無稽だが、一方で骨太なのである。何のために働くかを考えさせ、同時に金、金、金の風潮をやんわりと批判している。そんなところもウケている理由にほかならないだろう。