勇気を出して、いいたいことを言ってみる
一度もしたことがないことはできません。しかし、一度勇気を出して、自分のいいたいことをはっきりといってみると、心配していたほど怖い事態は起こらないとわかります。このような経験を一度でもすれば、同じことをその後何度でもできるようになります。
人との摩擦や衝突を回避することはできませんが、その場合でも、自分は他の人の期待を満たすために生きているわけではないという事実を知らなければなりません。人に合わせていれば波風は立ちませんし、誰からも嫌われることはありません。その代わり、自分の人生を生きられなくなります。
自分の対人関係を見直した時、自分を嫌う相手が誰もいない人は自由に生きられていないのです。反対に、自分を嫌う相手がいるとすれば、人から嫌われるということは、自分が自由に生きていることの証ですし、自由に生きるためには、嫌われることは支払わなければならない代償だと考えなければなりません。
しかし、あらゆる人に嫌われて孤独になるということは起こりません。実際のところ、自分の考えを大半の人はきちんと理解してくれるはずです。きっと反対されるだろうと思う人は、他者を信頼できていないのです。
※本稿は、『孤独の哲学 「生きる勇気」を持つために』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
『孤独の哲学 「生きる勇気」を持つために』(著:岸見一郎/中央公論新社)
孤独感や孤立とどう向き合うべきか? どうすれば克服できるのか?老いや死への恐れ、コロナ禍やSNSの誹謗中傷などますます生きづらくなる社会に、「救い」はあるのか?
著者はアドラー心理学を読み解く第一人者だが、NHKの「100分de名著」では三木清の『人生論ノート』やマルクス・アウレリウスの『自省録』を取り上げるなど、古今東西の哲学に詳しい。哲人たちの思索の上に、自らの育児、介護、教職経験を重ねて綴る人生論。