30代の大沢さん。TBSラジオのブースで原稿を前に。「この頃はまだまだ若くて、一番頑張っていた時代ですね」(写真提供:大沢さん)

一瞬でもつらいことを忘れてもらえたら

だけどまあ、ちょっとやり過ぎたのかなあ。フリーになって3年目、53歳のとき、脳梗塞で倒れたんです。脳梗塞は、発症した場所によっては言語障害が出るかもしれない。それは怖かったですよ。フリーになるのを早まっただろうかと、後悔も頭をよぎりました。

入院中は点滴を受けながら、ベッドの上で「か・け・き・く・け・こ・か・こ」って声に出さずに口を動かす練習をしていました。人から見たら、酸欠の鯉がパクパクしてるみたいだったかもしれないけど(笑)。

幸いにも3週間の薬物治療で退院して、スタジオで元の声が出せたときには涙が出ました。神様がそれほど悪くないように倒して、反省させたうえで助けてくれたんだと。

入院中に少しずつ声が出せるようになったとき、僕が大沢悠里だとわかった入院患者さんから、「なかなか病院から出られない人間もいることを、気にかけてください」と声をかけられました。そこで復帰後からは、番組中に「病気療養中の方も、お付き合いいただきありがとうございます」と一言入れることに。

するとまた、それに涙してお手紙をくださる方が大勢いたんですね。「ラジオなら、寝たきりで天井を眺めている人にも楽しめるんです」って。「お色気大賞」でクスッと笑って、一瞬でもつらいことを忘れてもらえたら、それだけで放送の大きな役目を果たしていると思います。

僕はいつも、「幸せだから笑うんじゃない、笑うから幸せになるんだ」と言うんです。これは内海桂子師匠が教えてくれた言葉。「笑って、笑って。笑顔に勝る化粧なし」って。

ラジオは偉そうな存在ではなく、BGMみたいにさりげなく流れていて、時々フフッと笑わせてくれる、友だちみたいなものなんです。