認知症になったら、表面的な感情に流されてはいけない
逆に、家族に対してウエットな善意に頼ると、たいてい感情的なトラブルに発展します。
「自分の親だから」「子どもが親の面倒を見るのは当たり前」といった感情的な前提だけで介護をするのは、現実的に無理です。症状が軽いうちはなんとかなっても、症状が重くなると愛情だけではなかなか対応できなくなります。
それなら、認知症の本人が軽度のうちに家族との間でドライな関係を結び、家族が「お金をもらっているから我慢しようか」と思える状況にしておくのです。
こうすれば、少なくとも憎しみが生まれないようになります。一見、冷たい感じはしますが、実は家族思いの行動だったりもします。
認知症の診断をされたら、物事が判断できる初期の段階で、これからの介護のやり方について、家族といろいろと話し合っておくことをおすすめします。また、家族で話し合うなら、任意であれ成年であれ、後見人を誰にするかも決めておきましょう。
認知症は、症状が重くなると、自分で物事が判断できなくなったり、自分の考えや意思を表明できなくなったりします。そのときに、任意後見制度や成年後見制度を利用して、あらかじめ決めておいた後見人にやってほしいことを実行するように頼んでおくのです。
例えば、老人ホームに入るときに家を売ってほしいと考えているのであれば、後見人になった子どもに実行してもらうことを決めておくと、売却の手続きなどがスムーズになります。
遺産の配分を決めておくこともおすすめします。症状が進行してからでは意思を表明できません。決めておけば、遺産で子どもたちが争うことも減るはずです。
認知症になったら、表面的な感情に流されず、大切な家族の人間関係を守りましょう。
※本稿は、『80代から認知症はフツー ─ ボケを明るく生きる』(興陽館)の一部を再編集したものです。
『80代から認知症はフツー ─ ボケを明るく生きる』(著:和田秀樹/興陽館)
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