零落した夫の元を離れなかった早川殿

今川家は氏真の代で衰退していきます。たとえるならば、御曹司で大企業の社長だったはずが、実家が破産して会社では窓際に……というところでしょうか。

結果的に家康のもとに身を寄せることになった今川氏真。信長とも面会し、親の仇の前で得意の蹴鞠を披露することに(法橋玉山 画作『絵本太閤記』3,国書刊行会,大正6. 国立国会図書館デジタルコレクション (参照 2023-01-23)

そうなれば、ある程度大きな実家を持っていながら、政略結婚していた奥さんはどうするか。現代だって「頼りないあなたとは離婚して、実家に帰らせてもらいます」という判断があっても、決しておかしくはない。

つまり、今川が衰退する中、氏真の奥さん・早川殿が実家の北条に帰ってしまっても、もしくはあらたに前途有望な青年に嫁ぐことを選んでも、氏真としては文句を言える立場ではありません。

でも、早川殿は違った。“超”がつくお嬢様だったのに、ずっと生涯、零落した夫の元を離れなかった。

五人の子を生み、家庭を大切にし、夫の再出発を応援しました。その結果、彼女が産んだ長男は中野区の鷺宮や杉並区の井草に領地を、次男は品川に屋敷を持つ、これまた旗本になっていく。

彼女は氏真を、子どもたちを大切にしていたんですね。幾多の苦難を乗り越えたこの夫婦の愛情は、ホンモノだったはず。だから氏真、ドラマの中だからといって、瀬名さんを口説くなんてダメですよ。きっとバチが当たります。