幼児的人生はすべて単衣で裏がない

幼児性のもう一つの特徴は、人間社会の不純の哀(かな)しさや優しさや香(かぐわ)しさを、全く理解しないことだ。

幼児的人生はすべて単衣(ひとえ)で裏がない。だから、厚みもなければ強くもない。

こんなことを書くだけで、政治家が噓をついたり、政治的理念など放置して派閥作りに狂奔(きょうほん)するのがいいのですか、などと言われてしまう。

曽野綾子「不純にもいろいろあるのだ。下世話な言い方をすると、下等の不純も上等の不純もある」(1966年撮影、本社写真部)

不純にもいろいろあるのだ。下世話な言い方をすると、下等の不純も上等の不純もある。

不純というと一つの概念しか考えないのが、幼児性なのである。本当に有効な予防外交というものが、もしあり得たとしたら、それは上等な不純が功を奏したからである。

幼児性はものの考え方にも、一つの病状を示すようになる。理想と現実を混同することである。この混同は、自分がその場に現実に引き出されない限り、それが噓であることが証明されない、という安全保障を持っている。