樹木希林さんが内田裕也さんへがん罹患を伝えた際、戻ってきた意外な反応とは――(写真提供:Photo AC)
誰もが経験する肉親や親しい人との別れ。「人がこの世を去ってからも、応援(エール)の思いはずっと生き残る。決して消えたりしない。まるでお守りみたいに」と話すのは、バースセラピストとして多くの人の誕生や死にかかわってきた志村季世恵さんだ。長年家族ぐるみで親しくし、晩年に寄り添った俳優・樹木希林さんからのエールは、その後の志村さんを支えてくれたといいます。その志村さんいわく、内田裕也さんのことを話す希林さんはとてもうれしそうで、まるで乙女のようだったそうで――。

希林さんと裕也さん

「私は裕也と結婚していなかったら、自分の中に存在する荒ぶる気持ちの鎮め方もわからず持てあましていただろうと思う。結婚して一緒に暮らしたのは一カ月半。だから也哉子がお腹にいたときはもう別々だった。いつも怒っていてね、何かあるとバカ野郎!ってことになっちゃうんだよ。気持ちを言葉に変えて伝えるより、感情をぶつけてくる。也哉子は私がなぜ裕也と別れなかったのか、『理解できない』って怒ることもあれば、悲しそうな顔をするときもあった。確かにそうだよなって私自身も思うことがある。でもね、裕也の純粋なところを私は知っているんだよ」

希林さんはここからさらにゆっくり言葉を発しました。まるでかみしめるように。

「私ががんになったとき、裕也に伝えておかなければと思って電話をしたの。想定外のことを聞いて、きっと怒って大きな声でバカ野郎! と怒鳴るのだろうと思いながら『もしもし、啓子です。私がんになりました』と言ったの。そうしたら裕也、何も言わないで黙っているんだよ」

希林さんは私の顔をじっと見ながら、

「たった一言こう言ったの。静かな声でね、そうか……と。あの人が沈黙するなんて初めてだよ。瞬間湯沸かし器みたいに反応しちゃう人が、声を出すことができなかった」