消化器外科医・温泉療法専門医であり、海外も含め200カ所以上の温泉を巡ってきた著者が勧める、温泉の世界。安心して、どっぷりと浸かってみてください。
※本記事は『秘湯マニアの温泉療法専門医が教える 心と体に効く温泉』
(佐々木政一、中央新書ラクレ)の解説を再構成しています。

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温泉と神様の深い関係

日本人と温泉についての最も古い記録は、8世紀に編纂された『日本書紀』、『風土記』にある。風土記の一つ『出雲風土記』には、出雲の国造(くにのみやつこ)が朝廷に参内する際のことが記されている。

「郡家(こおりのみやけ)の西にある忌部(いむべ)の神戸(かんべ)というところは、出雲の国造が新年にあたって、大和朝廷に服従を誓い、天皇の御世を寿ぐ詞を奏上するために朝廷に向かうとき、潔斎して身を清めるための地である。そのため忌部と呼ばれる。川辺に湯が湧き出し、海と山を望む景勝の地である。男も女も、老いも若きも、あるいは道につらなって、あるいは海浜に沿って、毎日集まり、市をなして、おおぜいがうちとけて酒を飲み、踊り歌いして楽しんでいる。その湯に一度入ると、容姿が美しく立派になり、二度入ればすべての病が癒えてしまう。昔からいまにいたるまで、その効能を得ないことはないという。そのため、人々はこの湯を《神の湯》と呼んでいる」 

国造が朝廷に参る前に、玉造温泉で身を清めたという話だが、これと同じ様子が各地の「薬湯」でも見られたという。古来、泉や水辺は聖域とされ、身を清め、病や傷を治す力があると信じられていたのだ。

温泉にまつわる神事をいくつか紹介しよう。