終活よりも悔いのない推し活を
「あるとき劇場で出待ちをして、日本から来たこと、大ファンであることをイタリア語で伝えました。そうしたら喜んでくれて。小さなコンサートがあるから来ませんかというメールをもらって、飛んで行ったこともあります」
密かな恋だったのかもしれないとサクラさんは思う。彼によってしぼんでいた彼女の心が充実したのは確かだ。だが、彼は年齢とともに舞台から遠ざかり、彼女が彼の美声を聴く機会も減っていった。
「何にでも終わりがあるとわかっていながら、せつなかった。私も年を考えたら、推し活より終活よねと思いながら、この春、イタリアに久々に行ってみたんです。これが最後かなと思って。そうしたらある歌劇場で、また素敵な声に出会ってしまった。若い歌手なんですが、心を揺さぶられた。終活はもう少し先かなと思っています」
この冬は、彼を目当てにまた歌劇場巡りをしたい、と彼女は明るい表情で語った。
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終活より推し活――。日々が充実し、多少の体調不良は吹っ飛び、仲間もできる。親や夫の介護も、推しがいたから乗り切れた、と語った60代女性もいる。
私自身、30代でNBAのスーパースター、マイケル・ジョーダンにはまって、借金してまで渡米を繰り返した。40代も推しがいて怒濤の日々を送り、ようやく落ち着いたかと思ったとき、巡り合ったのが「くまモン」である。
もう10年以上、くまモンを追いかけ、彼についての本を書き、写真集出版の企画・構成も担当した。彼の魅力を広く伝えたい一心だ。会えばいつでも元気になれる。もはや彼のいない人生なんて考えられない。
つくづく推しのいる人生でよかった。残りの人生、めいっぱいファンでいたい。全国のさまざまな熱烈ファンのみなさん、後悔しない推し活を続けましょう!