老人ホームの生活の安心感
2023年10月中旬に老人ホームに入居した父は、日を追うごとに穏やかな顔になってきた。介護士の目が行き届き、見守られていることで安心して過ごせているようだ。
居宅サービスには、夜間の定期巡回が含まれていて、0時、3時、6時に変化がないかを確認してくれることになっている。
入居後半月ほどは巡回で目が覚めることがあったらしい。私にちょっと愚痴ったことがある。
「俺は元気だから、見に来なくても大丈夫なのに、心配なのかな?」
私にとっては、その見守りはありがたいので、父に理解してもらいたい。
「パパが健康なのは、ホームの人たちもわかっているよ。目が覚めるのは嫌だよね。でもね、例えばトイレに行く時に転んでケガをしたら、ナースコールを押せなくて発見されないかもしれないでしょ。床から立ち上がれないまま朝になったらどうする?」
父はホームに入ってから、頭の回転がよくなっていて、即答してくれた。
「それは困るな」
「そうだよね。そのうち慣れて、巡回が来ても熟睡できるようになるんじゃないかな」
私がそう励ますと、父らしい返事が返ってきた。
「あぁ、俺は適応能力が高い。そのうち慣れると思う」
健康自慢も、適応能力に対する自負があることも、以前の私なら父の長所だと受け止められなかった。40代で亡くなった私の母や弟は長生きできなかったし、世の中には病気で苦しんでいる人も大勢いるのに、健康を自慢するのは鼻持ちならない気がしていた。今思うと「パパは偉い!」と言ってあげても良かったと少し後悔している。
父は宣言通り、あっという間に夜中の巡回に慣れて、朝まで熟睡できるようになったようだ。いつもの差し入れのコーヒーを持って私がホームに行くと、父は私に言った。
「最近朝までぐっすり眠れるようになった。俺はトイレが遠くて、途中で起きないから続けて眠れるんだ」
うーん。単に膀胱の容量が大きいだけのような気がするけれど、さりげなくそれを自慢するのは罪のない話だ。「それはいいね!」と私が答えると、父は満足げにうなずいた。