「シャドウ・ワークで体験していることを、アートワークとして音楽で表現できるのではないか。そう思うようになったのは、ワークを始めて3年目」(撮影:馬場わかな)
力強くピアノを弾きながら心の機微を歌い、幅広い層から支持されるシンガーソングライター、アンジェラ・アキさん。活動休止を経て、14年ぶりにリリースしたアルバムは、葛藤と向き合って生まれたものだった。(構成:平林理恵 撮影:馬場わかな)

前編よりつづく

「自分のために音楽を作る」

そうやって自分という存在を探っていくなかで、あるときハッとしたことがあります。それは、「トラウマを抱えた被害者としての自分」をちょっと俯瞰している自分に気づけたとき。思えば、あのとき私は、被害者目線という負のループから抜け出そうとしていたのでしょう。

こうしてシャドウ・ワークで体験していることを、アートワークとして音楽で表現できるのではないか。そう思うようになったのは、ワークを始めて3年目。「自分のために音楽を作る」なんてもう何年も考えたこともなかったのに……。

でも、心の奥のシャドウと向き合い、受け入れていく私がいて、それを俯瞰している私もいる。この体験を自分自身で作品にしなくてはいけない、そう思いました。

最初に作ったのが「Pledge」という曲です。日本語では「誓約」を意味します。シャドウ・ワークのなかで湧き上がってきた感情をバーッと書いたら、1行目から「傷ついた人間を嗅ぎ出せる人がいる」と、なんだか強烈な歌詞になってしまいました。

以前の私には、この歌詞は絶対書けなかった。もっときれいでわかりやすい表現に書き直していたと思います。

というのも、それまで私のなかには「制作者の私」だけでなく「編集長の私」がいて、曲ができると必ずそのボスにお伺いをたてる。「もっと万人に届くように」とか、「わかりやすい言い回しで」などと注文されては、修正するということをやってきたのです。