(撮影:岡本隆史)
演劇の世界で時代を切り拓き、第一線を走り続ける名優たち。その人生に訪れた「3つの転機」とは――。半世紀にわたり彼らの仕事を見つめ、綴ってきた、エッセイストの関容子が訊く。第55回は俳優の井上芳雄さん。小学校5年の時に劇団四季の『キャッツ』を観て衝撃を受けたという井上さん。しかし、藝大在学中に声をかけられ――。(撮影:岡本隆史)

ミュージカルのことしか頭にない

白皙(はくせき)の貴公子、ミュージカル界のプリンスとして『エリザベート』のルドルフ皇太子役、トート役や『モーツァルト!』のタイトルロールで絶大な人気を博す一方、井上ひさし作『組曲虐殺』などこまつ座作品にも数多く出演。

最近では『大地の子』『アイ・ラブ・坊っちゃん』など、ストレートプレイにおいても、着実な演技で名優の域に達している。四十代後半という井上芳雄さんを間近に見て、その類い稀な清潔感に息を呑む思いがした。

まずは少年時代のお話から。

――現在こうしているのは、小学校5年の時に福岡で劇団四季の『キャッツ』を観て衝撃を受けたからなので、それが第一の転機ではありますね。

『キャッツ』はミュージカルとして結構個性的な作品で、物語がはっきりあるわけでもなく、ショーに近いというか。でも物語の終盤近くにグリザベラという猫が「メモリー」という名曲を歌う。これにものすごく感動してしまって、

そこからもうミュージカルのことしか頭にない、みたいな毎日となり今に至ります。ミュージカルのナンバーって、ちょうど感情が盛り上がったところで名曲が歌われる。そこにノックアウトされてしまったわけですね。

うちは両親がクリスチャンだったので、子どもの頃から聖歌隊に入って人前で歌ったりはしていたんですけど、『キャッツ』を観てからは、夜になるとそのCDをかけて《1人ミュージカル》のようなことをずっとやってました。近所の人はさぞうるさかったことでしょうね。(笑)