
60歳を過ぎた木綿子は父の介護と引きこもりの娘の世話に日々追われている。不幸ではないが、いろんなものを諦めてきた人生だった。けれど、ひょんなことから知り合った2歳年下の男と出逢う。二人は互いに惹かれていくが……。遠田潤子さんが描く、静謐で過激な大人の恋愛小説。ぜひお楽しみください。
大阪市内に住む叔父に再婚の話をすることにした。蔵の後継者問題もある。きちんと了解をもらったほうがいいと思った。
叔父は家業を嫌って早くに家を出た人だ。機械メーカーで働き、定年後は悠々自適の生活を送っている。以前は住吉大社近くの一戸建てに住んでいたが、今は阿倍野(あべの)のマンションを買って移った。息子が二人いて俺の従弟(いとこ)になるが普段の付き合いはほとんどなく、父の三十三回忌に会ったのが最後だ。
蓬命酒を持ってマンションを訪れると歓待してくれた。叔父は今年七十五歳で髪は真っ白だが量が多く、小太りで血色がよく元気そうだった。髪が薄くならないのは白鳥家の血筋らしい。
しばらく雑談をすると、趣味のバードウォッチングで各地を飛び回っているという。アルバム一冊分の鳥の写真を見せられた。
再婚を決めたことを伝えると、叔父は驚き、ずいぶん喜んでくれた。
「そりゃよかった。ずっと独りやから心配してたんや。とうとう跡継ぎを作るつもりになったんやな。白鳥蔵は老舗やからな。やっぱり血縁に継いでもらうのが一番ええと思う」
いきなり子供の話をされて面食らった。木綿子との間に子供を作ることなど考えたことがなかった。
「俺はもうすぐ六十だよ。この歳で子供なんて考えてない」
「なに言うてるんや。男はいくつになってもその気になったら子供を作れる。諦めることはない」
