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「行」という漢字には、コウ、ギョウ、アンと3種類の読み方があります。実は、漢字を「音読み」と「訓読み」に分けているのは日本だけなのだそうです。なぜ日本語の読みは、こんなにも複雑なのでしょうか?そこで今回は、音韻史の専門家である山形大学人文社会科学部・中澤信幸教授の著書『漢字と音読みの謎を解く-呉音・漢音・唐音の奥深い世界』より一部を抜粋し、「ややこしくて面白い、漢字と音読みの世界」をご紹介します。

漢字の「読み」はたくさん?

漢和辞典の引き方は国語の時間に習う。とはいえ多くの人は、実際に漢和辞典を引くことがあったとしても、せいぜい漢字の「読み」(音読み・訓読み)、そして意味ぐらいしか見ないのではないだろうか。

漢字の音読みには、それぞれ名前が付いている。「行」の音読みのうち、コウは漢音、ギョウは呉音、アンは唐音と呼ばれる。「明」も同様に、メイは漢音、ミョウは呉音、ミンは唐音と呼ばれる。これらはそれぞれ伝えられた時期や経緯が異なっている。漢音は飛鳥時代から平安時代にかけて、遣唐使などを通して伝えられた。呉音はそれよりも前に、仏教経典などとともに伝えられた。そして唐音は中世になってから禅宗とともに伝えられた。

この漢和辞典をじっくり見ると、実はたくさんの「読み」があることがわかる(『全訳漢辞海』。図1)。「明」という字の場合、まず「メイ・ミョウ」と音読みが片仮名で示され、続いて「あ│かり・あか│るい・あか│るむ・あか│らむ……」と訓読みが平仮名で示される。音読みについては、さらに「メイ漢」「ミョウ(ミャウ)呉」「ミン唐」に分けて示されている。これが「漢音」「呉音」「唐音」である。

<『漢字と音読みの謎を解く-呉音・漢音・唐音の奥深い世界』より>

これだけでも結構な情報量であるが、漢和辞典にはさらにいろいろな情報が詰められている。音読み・訓読みに続いて、漢字の「韻」(ここでは「庚」)および「声調」(アクセントのことで、韻のまわりの四隅に付けられた印で示す。ここでは「平声」)が示されるが、これなどは多くの人には何ら関係のあるものではなく、なぜこのようなものがわざわざ記されているのか疑問に思う人もいるだろう。ちなみに、その後のアルファベット「ming」(「i」はアキュート・アクセント付き)はピンインといって、現代中国語音(北京語音)を示している。

このように、漢和辞典に詰められている情報をひもとくと、いろいろな興味が湧いてくる。まさに「沼にはまる」ようである。実はこの韻および声調は漢字の音読みにも深く関わるものであるが、その話は後ほどすることにしよう。