イラスト:楯川友佳子
異形のバケモノ、地縛霊、未確認飛行物体……不可解な存在を目にした時、あなたならどうしますか? 読者から届いた、とっておきの体験談をご堪能あれ。(「不思議体験手記 傑作選」より)

読経のような低い声が聞こえる

ひょんなことから知り合った男と、最近まで同棲していた。

初めは新婚生活のようで楽しかったのだ。だが、7歳年下のその男が、私のことを「姉さん」と呼びはじめるにいたって、彼の発する言葉がだんだんと耳障りになっていた。母親に甘やかされて育ったらしく、高級好みで外食が多く、隠れて煙草を吸い、外出時もすぐにタクシーを呼ぶので、徐々に毎月のやりくりに苦労するように。いつまでこんな生活が続くのかと思っていたのだが……。

蒸し暑い夜のことだ。私はいくら熟睡していても、何かあるとすぐに起きてしまうたちである。そんな私が、夜中にある異変に気づいた。目を開けてみると、ベッドの隣で寝ている彼の胸元に、黒い影がのしかかっているではないか。私は何事が起こっているかもわからず、じっと息を殺していた。

その黒い影は人のようでもある。男だ──いや、でも何かおかしい。体は小型のオートバイくらいの大きさで、頭は丸く、口先はとがっていて、まるでバッタのようである。そのとがった口先を、寝ている彼の口の中に差し込み、何かしゃべり続けていた。読経のような低い声が続く。何を言っているのかは、わからない。彼のほうはというと、いつものように大口を開けて、ガーガーといびきをかいている。

私はそのバケモノを、もっとよく観察しようとした。哀川翔が着ていた、漫画風のコスチュームのような外見。汚いオレンジ色の丸いライトが4、5個、その黒い体の所々にくっついていて、時折悲しそうに点滅している。