スコットランドでの旅の途中、伊集院さんの頭をよぎったのは日本にいる愛犬の姿だったそうでーー(写真提供:講談社)
ペットを飼った人が、かならず直面しなければならない別れ。執筆のため、仙台の実家と東京の仕事場を行き来する多忙な日々を送っている作家・伊集院静さんを支えてくれたのは、天国へと旅立っていった愛犬、ノボ・アイス・ラルクの存在でした。著書では、愛犬たちとのかけがえのない時間や、ペットロスから立ち直るためのヒントを紡いでいます。その伊集院さん、スコットランドでの旅の途中、ふと日本にいる愛犬の姿が頭をよぎったそうでーー――。

モルトウィスキーの取材でアイラ島へ

七年前の秋、スコットランドのちいさな島へ、モルトウィスキーの取材に出かけたことが あった。

アイラ島。スコッチを愛する御仁には“聖地”とまで言われている島である。

グラスゴーの空港から小型飛行機に乗って島に渡った。

雲の合い間から大小いくつもの島が見え、やがてアイラ島が見えるとなんと、これぞリンクスコースというゴルフコースが真下にあった。

ウィスキーの工場見学じゃなければすぐにでもコースに出たい気分だった。

ウィスキーの蒸留所と言うが、大半は密造酒造りに励んだ名残りがあるのが普通である。

だから蒸留所は辺鄙な場所にあるものが多い。

見学を早々に終えて、海を見渡せる工場の裏手の丘に独りで登ってみた。

北海からの海風が寄せ、足元の草が揺れ、なかなかの散歩道であった。

――てっぺんまで行って煙草を吸えばさぞ美味かろう。

私は旅に出た時はまず訪ねた街の高い場所に登り、そこから街の全容を見る。