食べ物が美味しく、すべてが大らかだった香港

『帰って来たドラゴン』宣伝ポスター(ローマにて)
『帰って来たドラゴン』宣伝ポスター。27歳の頃(ローマにて)

香港は僕が初めて行った海外になりますが、今までろくに食べていなかったせいか、もう何を食べても美味しくて。鶏の足を煮たものだけは見た目を含めて苦手でしたが、他は全部口に合いました。皆さんからよく「ご苦労なさったでしょう?」と言われますが、ちっとも苦労なんかしていないんですよ。(笑)

住居はホテルではなく、撮影所の中にある宿舎。ひとつの村のような大きな施設で、俳優もプロデューサーも皆そこに滞在しているのです。僕も草履履きで、そこからスタジオに通っていました。食事も出るため、お金を使う必要がないのがありがたかったです。

現場は皆すごくフレンドリーで、アクションも好きなようにやれるし、フィルムなんかいくら使ってもいいよという感じで、10回、20回とNGを出しても怒られない。仕事の時は通訳がつくので、コミュニケーションの問題もなし。大らかで、伸び伸びと仕事ができる環境でした。

昼も夜もスケジュールが埋まっていて肉体的には多忙だったものの、のんびりした自由な雰囲気に、毎日「ここは天国だな」と思いながら撮影をしていました。

撮影所は郊外にあって、がけ下は海。夜に撮影が終わって空を見上げると、大きな月が出ているんです。時には月あかりの下、「この海を泳いでいけば日本に帰れるのか……」と郷愁にかられたことも。街の電気店から千昌夫さんの『星影のワルツ』が聴こえてきた時はグッときましたね。