家でよく歌っていた美空ひばりさんや畠山みどりさんなどの歌まねをして勝ち抜き、わけもわからぬままグランドチャンピオンになったのですが、奇跡が起きたのはそのあと。番組で審査委員長を務めておられた作曲家の古賀政男先生から、弟子入りのお誘いがあったのです。
父は《神様》からスカウトされたと歓喜していましたが、母は「幼い娘を芸能界なんかに入れられない」と大反対。結局のところ、私の意思に委ねられることになりました。
「歌手になりたい?」と聞かれたときに、なんだか変な空気だな、重要な決断を迫られているのかなと子どもながら思ったことを覚えています。でもそれは一瞬のことで、私は深く考えずに「うん、なりたい!」と答えたのです。
母は、そんな私の言葉を聞くとすぐに自分の着物を出してきて、畳み方を覚えなさい、と言いました。「芸能界に入ったら大人も子どもも関係ないのだから、何でも一人でできるようにしておかなくちゃいけないのよ」と。母が寂しさをこらえているのが、ひしひしと伝わってきて……。
ごめんなさい、思い出したら涙が出てきちゃった。歌手になってからも、「まだ反対してる?」と聞くと「反対だね」と言っていましたが、その実、一番応援してくれたのは母でしたね。